ひと色に染められそうな国に住み山葵の味のかりんとう食む  若尾美智子



この国に国有鉄道ありし頃雲はゆっくり漂っていた  村田馨



反応の無けれどいとも楽しげに仮設舞台に踊る看護師  佐々木通代



だうしやうもなく眠くてたまらぬ 旅先から子供がマリモを持ち帰りてのち  西橋美保



少しずつ魂磨りへらすうつしみの吾にまっかなポンポンダリアを  大場恭子



祖母(ばば)が挿しし薄かるかや満月は飛び出しそうに地上を照らす  小門則子



老いの精神(こころ)見よとばかりに紅きタイ好みし華奢(かしゃ)な友は逝きたり  三浦冨美子



両の手にあふれて嬉し古代人の涙のかたちせし木の実たち  守谷茂泰



百均の庖丁を買うこんなので刺されたらなど考えながら  磊実



鐘の音がくぐもり遠く聞えくる雪が間近し遠くに聞ゆ  椎木英輔



「首の根のほくろは斬首の兆し」とふ宮沢りえの首筋しろし  有沢螢



たまきわる死後の世界を見るために死んでゆきたり丹波哲郎  松木



標本の蝶思はせて整然と眼鏡屋のショーケースにめがねは並ぶ  下村由美子



人待ちの新宿西口改札を忘れてゆく顔ばかりが通る  猪幸絵



空青く高いですねえ血糖値百三十二をばいかにかもせむ  田中浩