「過ぐ」 酒井佑子
毛桃(けもも)のとき過ぎしかば悲しみて油桃(ゆたう)を食へり桃好き男
雲の肩に八日月かかる牽引の限りなく遠きその月のかほ
首のない白鳥が駆け首のない騎士が追ふ雲は死にかはりつつ



「秋の少年」 倉益敬
せつなさのわけを誰にも聞けなくて壊しぬ夏の鉱石ラジオ
団塊の世代のやうに沿道の風になびける秋の向日葵
週末は打ちのめされてリビングに大陸棚のごときうたた寝



「シュレッダー」 磊実
シュレッダーに指までとばす夢を見るきりきざみても残るはがゆさ
不憫がるこころを茶筒にしまいおく時おりだして湯をかけてみる
団塊に女もいるぞ更年期のりこえふわふわの女がいるぞ



「春の数えかた」 鶴田伊津
わが顔は二枚の耳にはさまれて缶コーヒーを不器用に飲む
時みちて再び芽吹く木のようにからだは春の数えかた知る
あちこちにやわき新芽を隠したるような身体をタオルでくるむ