夜の海へ潜水艇の沈むごとストッキングに触れる足指  江國凛



きゅるきゅると藤原紀香の膝小僧モカブラウンのストッキングに透く  越田慶子



《この冬をブーツで制覇!》ファッション誌開戦前夜のようなきらめき  砺波湊



並べられ裸身をさらす魚ゆゑ尾の位置なべてはぢらひをもつ  岩橋佳子



足跡を消しに向かえばまた別の足跡がつく 過去は消せない
目を閉じて膝を抱えた我の背に「充電中」のライトは灯らず   里川憐菜



二十歳三二五ヵ月と年齢の欄に記入してみる  中野粒



あれこれと機能の付くを持ちながらわがケータイはなほも電話機  荘司竹彦



老眼を中国語では老花眼(ロウフォオイエン)と言うはうれしく目薬をさす  榊原トシ子



薬師寺聖観音の人中はげに端整に彫られていたり  松岡建造



妻と吾(あ)は力を合わすこともなく目の色変えてゴキブリ仕留む  小林惠四郎



留守の間に立ち寄りし息子が飲み乾して帰りゆきしか珈琲缶ひとつ  木村悦子



牛舌(ぎゅうたん)を旨し旨しと食む友の毒舌更にとがりゆくべし  柿沼良訓



どうでもいい事と思えど嘘を言う友の口よりにんにく臭う  永田きよ子



あたらしき秘密をもてる秋の夜の酒はひとりで飲むべかりけり  野村裕心



いと小さき社(やしろ)と会ひぬ工場の跡地に建ちしショッピングモールに  小出千歳



すき間なく雨粒落ちて黒色ににじむ路面を人帰り来る  河村奈美江



残り世をハラハラドキドキ坂下る誰も乗せないわが一輪車  村瀬直躬



骨粗鬆の鬆の字忘れ平仮名で書けば間の抜けしカルテとなりぬ  犬伏峰子



こんなにも明るき秋を病室に媼四人はひたすら眠る  竹内タカミ



樹の枝に登りて枝を切りてゆく足場の枝も最後は切りて  菊地威郎



秋風に吹かれまろべる塊の和毛(にこげ)は誰の魂ならむ  内藤健治



祈るとふひとのてだての極まりを見つめていつしか霜月となる  水原茜



寂しければ寂しき歌を秋の夜永井陽子にどっぷり浸る  桂はいり



あかつきのかすかに聞こえる貨車の音朝の冷気とともに届きぬ  小池東雲