まつたけの肉片ひらり碗に浮く公開処刑やめざる国の  洞口千恵



手のひらの臭ひ早朝(あさ)より生ぐさしゆふべの夢になに殺めしや  牧尾国子



日本ハム日本一」に沸く夕べ 嗚呼また誰かいじめられてる  柊明日香



「死んだ気になれば何でも出来たのに」何でも、だから自殺したのだ  生野檀



じゃがいもを地球とすればこの辺のへこんだところにこの国はある  森直幹



格好良き女医の名山道力子さん一夜に七人の命取り上ぐ  助川とし子



遠離るバックミラーの街並は反り返りつつ秋景色なり  川口かよ子



バス降りて右と左に別れたり友は病院われはスーパー  加藤久美子



かけ込みし雨の日暮れのスーパーにモーリタニアの蛸の発色  大越泉



杖がわりのショッピングカーにのぞく葱 メトセラたちの村を過ぎゆく  久保寛容



女男(めを)にこそ賞味期限のあることを知りつつ啜る蓴菜もづく  近藤かすみ



鬱屈のくつが逆さに沈みたる潜在意識のうすあおき沼  竹安啓子



手擦れたる革の鞄のぬくとさにその人となり想ふ小池光の  山本じゅんこ



谷村はるか肩で風切りため口でものいふさまの若さ眩しき  楠藤さち子



経験をみがく西瓜の熟れぐあい敲くあい間が歌となりゆく  三浦利晴



中央線の座席に居眠りするひとの首の黒子も見えるマンション  西尾睦恵



あかね雲金色にしておかね雲ばらばら降つてくるといいのに  安斎未紀



多魔川と書きちがえればたちまちに午(ひる)の睡魔はわが身より消ぬ  荒井孝子



鉄骨の手をそと伸ぶる通天閣おほばおほぢの心とおもふ  梅田由紀子



鹿見橋かもしか橋と渡り来て小町見返り橋に佇む  安達広子



磨かれた名刀に喩う秋のみず指の切れそうなまで冷たくて  今野智恵



みちばたのえのころ草も親しくて触れつつ行けりふるさとの道  木村渚



木守柿西日をうけて灯色なすふるさとすてろといはんばかりに  佐々木和彦



湯の街のながれに浮かぶ鯉一つひとりごといふ十三夜かな  みの虫



榴弾その遠擲のすぐれたる新兵の名は沢村栄治  黒田英雄



指揮棒が振り下ろされて静寂のなかに完結する小宇宙  魚住めぐむ