霜しろき刈田に一羽発光を仕損じたるごと青鷺佇てり  石井庄太郎



夢虫がむかひの祖母の肩にきていつまでも飛びたつなと念ず  高澤志帆



流れゆく時を結ふ糸恋ほしむる冬のはじめはしづかなりけり  山科真白



職場には相性の悪い人もいて買い替えるたび重くなる傘  猪幸絵



胃に送るにごり梅酒のどうろりとしがらみ地獄に首まで沈む  大橋麻衣子



ドロップスのやうに晴ればれ出でてくる軽乗用車ビルの中より  紺野裕子



一ヶ月先まで食えるアンパンを頬張る遅延ののぞみ車中に  井上洋



視野暗きひとの蹠(あうら)の踏み締める点字ブロックごつごつやさし  原みち子



三角の駅舎は徐々にこわされて国立駅の空がひろがる  村田馨



通り雨過ぎて陽の差す大通り山車のごとくに霊柩車来る  下村由美子



霜降り月、乗り捨てられしタクシーを拾つて捨てて歌会に行く  大滝世喜



からくりの人形として家事をするわれが時折歌などつくる  西橋美保



薄皮がはち切れるほど熟れすぎた無花果まるでマチスのヌード  杉山春代



北朝鮮が日本を批判するような口調でしゃべる鸚鵡(おうむ)ありけり  松木



飲み込みて竟に届かぬ手紙ありや六道郵便局のポストに  槙村容子



嘘をつく瞬間耳朶にふるる癖 耳瓔珞(みみやうらく)はかすかに揺れて  有沢螢



芒原を分け入るときに帆となりしわが両耳に風は満ちゆく  守谷茂泰



鬱を深み購読を解約したり<国文学>も<信徒の友>も  冨樫由美子