「二月の踵」 阿部久美
録画されしわれにまばたき多きこと粉雪はらふごとく哀しむ
真夜中の氷池にひびの入りたるか緋鯉でありし腓引き攣る
軽くおせば易しくひらく扉(と)はありてゆきかぜ入る弱法師入る



「愚直」 原田千万
鬼の裔ならむやわれも むらさきの木草割れたるなかのしろたへ  
夕焼けのうすくれなゐの空に発ちこの世を逃れゆく鳥なるや
目閉づれば仄かに見ゆるものありてひかりの匂ひながれてゆきぬ  



「上野ZOO」 川田由布
目を凝らして見る柵のなか動くもの何も見えねばなお目をこらす 
充足のひと日といわん麒麟の首われの視界の空に並べり
動物を見れば見らるる孤独あり空の明るさ風のあかるさ



「わが感謝の会」 武田英男
冬の蚊の よろぼふごとき卒寿すぎ 人の情は 身に沁みにけり
湧きおこる混声合唱『四季の歌』その瞬(とき)どつと涙はながる
     皆さんにマフラーを頂く
マフラーは われの心もあたためて 歌の十首を吐かしめにけり