遠ざかる猫の背中と立ち尽くす犬の胸との間(あひ)の木枯らし  田村よしてる



霜月のしもつゆみはりわが矢をば師走に向けて放たむとする  郄橋とみ子



焦点をあわさず話しかけること習いとなりぬ閉じたる家に  弘井文子



湯舟より日本海を眺めいつミサイルテポドン何でもござれ  石高久子



「石動(いするぎ)」の読みを係が尋ねくる帰省前夜のみどりの窓口  河村奈美江



夫の老いいつも見つめてをりたれば同窓生の老いは新鮮  中田公子



旅立ちにほどこす化粧われが見し姑(はは)の最初の化粧となりぬ  小野さよ子



オリオンのならぶ三つ星その間(あい)のとうときまでの遥けさ想う  野村裕心



まだ温き財布とケータイ渡されてバッターボックスの背中見ており  染谷美沙子



「週末は気温が急に下がるでしょう」ダイエットだとこうはいかない  根本つぐみ



編み込みの美(は)しきケニアの娘らが文京区駆け抜ける祝日  砺波湊



コンサートホールに居る事放射線治療の如く耐え難くあり  木戸真一郎



エゴとエコせめぎ合ひつつこの街の七分別を確と守りぬ  洲淵智子



「放逸」と「失念」そして「散乱」も煩悩なりと教へられたり  太田千世



友達としてではなくて役人の君に話があるという友  田所勉