のど飴が売り切れている街に居てほこりまみれの夢もまた良し  津和歌子



明らかに無能な上司に胡麻をすり鼻の油を腕で拭きたり  西尾睦恵



幼児の小さき頭を撫でてをり父去りし子のかなしき旋毛  菊池尚子



「エッチ大」と言はるるゆゑに校名をやむなく変へし「英知大学」  正藤義文



孤独なる日々懐しくかつて住みし学生街に髪切りに行く  吉川真実



妹も我も暮らしにかへるゆゑエンドロールは最後まで観る  大越泉



さくらんぼ正しく並ぶ木箱もち教職退きし友を訪ねる  中山邦子



「戯れに歌を詠む」たはむれの例文に在りかなりいい線 村田耕司



菜の花をゆでこぼすとき立つ湯気を四国の春の匂いと思う  本田翠



イチローも古田も子無し降りさうで降らざる雪を孕む雲消ゆ  洞口千恵



マフラーを巻かず歩めり雪降らぬみちのくの冬はどこか貧しき  洞口千恵



手をふつて別れたときの表情をおもふのだらう つぎに逢ふまで  近藤かすみ



絡まったイヤホンを解き終わるころ電車は駅にするすると着く  生野檀



公園に子供の描いた円(サークル)を横切れば力みなぎりてくる  生野檀




                                                (2007.5.25.記)