玄関にビニール傘はひらかれて深夜ひかりを集めつつある 猪幸絵
不器量を言はれながらにタンカンは配られてありランチの卓に 池田弓子
祖父よりも日に日に祖母に似る父の人呼ぶ声も細くなりたり 下村由美子
法廷画家のうなじは太し引き結ぶ被告の唇を写し取りつつ 森澤真理
空が高い 郵便貯金の通帳が銀行型になった頃から 佐藤りえ
首の根の凝りのふかさよ肥沃なる土のちからにどこか似てゐる 小西芙美枝
日没の最後の光受けるとき歩き出さんとするビルの群れ 守谷茂泰
靴底に暗き穴もて人人が家路を急ぐ冬の夕暮れ 守谷茂泰
霧吹きて障子紙はがす女らのこゑぱきぱきと秋支度する 曽根篤子
(2007.5.24.記)