下染めに緋色をしづめ激しかる日本の黒喪家にならぶ  武下奈々子



臆病な鬼が靴履き出て行くもすぐにわたしの闇に戻り来  阿部久美



垂直に立ちつつ回る独楽の芯見てをりここに生きるほかなく  原田千万



大き尻壁に押し当てたゆたへる象のウメコに春風が吹く  秋田興一郎



光琳の梅の余白を思ひみてけふ四十四の歳とはなりぬ  春畑茜



皇族の適応障害にはさぞつよきDrugがつかはれをらむ  山寺修象



吹き抜けのビルの広場の物産展するどき刃物積まれてひかる  金沢早苗



あらかじめ楽しき声のきこえきて園児を束ねる人あらはれる  金沢早苗



頭上注意しながらのぼる灯台のせまき階段は尻に塞がる  中地俊夫



わが座る田端のスタバ スタバとはスタバトマーテル悲しみの聖母  小池光



女人坐し、あはれあはれや雛あられ天皇制をぶつぶつと云ふ  西王燦



生き死にに遠き桃園、錆しるき鉄の梯子が捨て掛けてあり  西王燦



人なかにあればいよいよまさびしきこの魂も引きつれゆかな  宮田長洋



UNIQLOを家族は泳ぎ似た色を手にしてレジに集まってくる  岩下静香



叱ったらうつむいてしまう子を曳いて知らない町の踏み切りを越ゆ  早川志織



新聞の配達人が咳一つ残して去るもさびしかりけり  宇都宮房子



さんぐわつのひかりのなかのみどりごの産毛に宿るさんぐわつのひかり  山下冨士穂



春の雪は寡黙なひとの言外の言葉のやうで掌(て)に肩に受く  渡部崇子



店のまへにみづをうつひとあらはれてくらき口へともどりゆきけり  花笠海月



楽園も失楽園もあらざればひとり深夜のファミレスに居る  梨田鏡



にわか雨とほり過ぎたる公園に冬の蛇口が光ためをり  倉益敬



沸騰の時を待たせて静かなり炊飯ジャーの中のみづうみ  倉益敬



歩幅とはなかなか合はぬ飛石は迫る日暮れに沈まずにあり  三井ゆき




                                                (2007.5.24.記)