「花群」大谷雅彦
花群のなかまつすぐに陽は差してやや湿りたる額髪にほふ
くぐもりの二月三月われのみの桜咲かせて地図はにぎはふ
われのみの花に逢はむと上り来し明けのみ吉野ただ白き嶺



「春陽」庭野摩里
水音がかろくなりたり北向きの黒岩沢に春陽めぐり
せつかちな燕がきてゐる弥生尽「白州温泉」大屋根の軒
春愁をいふ私がしらずしらず水のほとりに口笛をふく



春の嵐」金沢早苗
風も燕もをりをり抜けてゆきたりと幾度も故郷の家を言ひたる
ひと葉ひと葉月のひかりを受けとめて闇ふかまりぬ朴の木の下
絹の道ましぐらに来る隊商を思はせて今日黄砂のニュース



「サイレント・ガーデン」菊池孝彦
身を隠すべきものあまたある地上そのさみしさが空を仰がす
沈黙がわれらを隔つ死者生者かたみに庭をめぐる朝夕
異国への帰還夢見てねむる鳥を体内に飼ひはじめしは何時?