「鳥の巣」廣西昌也
老健に続く小径に桜散る痛いのだけは嫌ですからね
わがうちに鳥の巣があるはぐくまれ飛び立ってゆく姿なき鳥
理不尽と渡世が混じりあっていてイチゴフロート美味なりにけり



「よろめく・コロボックル」西村美佐子
けふわれはコロボックルのごとく働いたとこゑに出だせば心は足らふ
押し花のさくらの影さすおもひでは伊東静雄の詩集にありき
「αの星」に並びて夏ちかき日の「愛の挨拶」はせつなかりけり



「東京タワー」杉山春代
わたくしめなりに七人の敵ありぬ生きて六十年(むそとせ)パート二十年(はたとせ)
養児防老をかみしめながら母と観るリリーフランキーの「東京タワー」
たゆたひて角を曲がればわが身より零れし色に咲く矢車草



「はつなつと初夏」川明
いまひとつ定りがたきはつなつの季(とき)のをはりを雨しぶき降る
名細(なぐは)しき<草生>の里のはつなつの風に吹かれき ともに吹かれき
間引き菜を朝(あした)の汁に掬ひゐて涙ぐましもはつなつをはる




                                                     (2007.7.9.記)