リモコンが敵に渡らば悪になる鉄人28号あはれ 田中浩
風凪ぎの空に釣り糸垂らしゐる父居るやうな春の雲見ゆ 下村由美子
春の日は旅に暮れゆく見はるかす水平線はとわに若くて 守谷茂泰
当選に遠き候補らのびやかに未来図を描く選挙公報 若尾美智子
死者生者会いたき人を思いつつ桜堤をどこまでも行く 槙村容子
はる陽背に病む人の脚さすりゐてもつとも近き死に気づかざりし 染宮千鶴子
敗残の味など知らぬわたくしの舌に崩るる杏仁豆腐 森澤真理
縞馬の縞ゆるやかにほどけゆく春の真昼はただねむたくて 西橋美保
臓腑なき石の地蔵を羨めり胃より腸へと癌の転移し 上原元