隊商をはぐれしごとく空缶のうづたかき積み自転車ゆくも  川本浩美



渡りゆく鳥かも知れずサンライズ出雲の窓から手を振る娘  倉益敬



一輪の花を挿したる硝子器の向かうにしばしゆれてゐる妻  原田千万



樹をのぼる五月の水をおもひつつエスカレーターにひとり乗りたり  金沢早苗



枯草熱(こそうねつ)とよばれていたり花粉症は昭和三十年代にもありぬ  室井忠雄



もう年ですと言へば逃れらるることありてうふつと娘に笑はれてゐる  檜垣宏子



街なかの電光掲示板簡潔に植木等の死を告げて消ゆ  斎藤典子



ガイガーカウンター騒ぐこのあたり今は昔あしひきの山川呉服店  藤原龍一郎



わがまへを行くは蹄鉄師か日のひかりひとつひとつを土に踏みつつ  小池光



一連の接着本数五十本マックス針の連山の洞(ほら)  大森益雄



白樺の瘋癲病院とこしえに父逝きし日のカッコーが鳴く  松永博之



はつなつの園に銀輪とほりたり緑響くとおもふつかのま  多田零



夕映えの樹を捥ぎ取りて接木せむ中村正義の顔以前以後  木戸敬



手首なき仏像の前に手を合わせ人は祈りぬわれも祈りぬ  宮粼郁子



刈りゆけば石に当りし鎌の刃の欠けししろがね朝の陽返す  佐竹田美奈子



五月闇引っ張ってきて明日運ぶ伐採樹の上に被せて終わる  知久安次



空っぽな方が幸せそうに舞うサラリーマンも鯉のぼりも  八木博信



時といふ掟にもつとも従順な爪を切るたび気はしづまりぬ  菊池孝彦



酢大豆を毎日食べよと死に際の言葉のごとく母は言ひにき  吉浦玲子



静かなる年寄りたちは花の下弁当食べて居なくなりたり  鈴木律子



十月のステンドグラスいささかも神の姿のなくて明るし  梶倶認



はつなつのひかりに同化するために取り出すスペアミントのガムを  宇田川寛之



汕頭(スワトウ)のハンカチーフに骨包み行きたきところのあるごとき夕  三井ゆき