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◆真木勉第1歌集『人類博物館(ミューゼ・ド・ロム)』
(桂書房 1994年3月10日 2000円) 244首
「アナタには合はせる顔がないない」と言ひつつ顔がなくなつてゆく
バスを待つ見知らぬ人に挟まれてわれも見知らぬ人になりをり
虫歯五本虫の匂ひのする口の形のままに言葉が洩れる
この世からあの世に通じてゐるらしき目の裏側を目をつぶり見る
髪よりも手の爪の垢いつぺんに洗ひ清めるシャムプーの泡
指先につまみ上げたるこんにやくに心の震へ共鳴したり
時々は双眼鏡を取り出だし空気の詰まりし空間を見る
電車待つをんないきなり唇(くち)すぼめふうふうふうふう赤児を冷ます
いつせいにセイタカアワダチサウ揺れて臍の緒切りし記憶さわだつ
まつ毛さへ重き梅雨の日さなきだに左の脳に蛹が育つ
ぶち猫が顔の幅だけ玄関の扉を開けて外を見てをり
燃えないゴミの収集日なり青黒き一升瓶の中に雪降る
一枚の紙の表裏が分かれゆき二枚になりゆく脳内風景
アルマジロが子供産みたり その子供の頭から爪先までアルマジロ
満員のエレヴェーターに乗る人ら 乗りては直ぐに入り口を向く
やうやくに目に慣れたこと DIGITALの時計が空の一隅にある
駅ビルと家(や)並みさながら墓石となる夕焼けのホメオスタシス
向かひ来るヘッドライトが連れてゐる後ろの闇にいきなりぶつかる
次々と名前呼ばれる待合室呼ばれるたびに違ふ人立つ
一日中立つてゐるのが苦しくて両手は土を恋しがりにき