<第6回高瀬賞>


◆受賞作(2篇)


「六月輪唱」川井怜子
濡れて立つ木のさみしさに真昼間のプールはひとりひとり影ひく
廃線のうはさのバスが稲荷坂を唸り登れり涙ぐましも
雨あがる空のまほらをちちと鳴きいのちまるごと翔ぶつばくらめ
ひかり揉む若葉の風にあふむけばまぶしくとほく輪唱聞こゆ
救急車を呼びし隣家の玄関がくちなし色に開かれてゐる



「島」河村奈美江
寝室に標準時間を流し込む電波時計の立つ窓辺より
一人づつ許されてゆくセキュリティ・ゲートの前に連なりて我ら
一様に紺と言へどもそれぞれの皺ハンガーに並び吊るさる
薄灰のオフィス机の集合を<島>と呼ぶとき 漂ひ流る
尻軸にキャップを差せばカナリヤの尾羽の黄なるラインマーカー




◆佳作(2篇)


エビアン」越田慶子 (抄)より 
密林に覚める心地をぬばたまの六つの黒目が凝らし見つむる
点滴のスタンドからから引きながらエビアン買いに外来棟まで
安らけく夏の息するわが友が青いりんごをくるりと剥けり
よく見れば老い父に似るわが顔のまつ毛眉毛はほとほと抜けて



翡翠」渋谷知子 (抄)より
苦しみて訣別したることなんか忘れてしまへとわらふ翡翠(かはせみ)
仰向けるのみどをさなく少年がレモンスカッシュぐいぐいと飲む
クラリネットの楽隊五人胸そらしゆく春の日の立花銀座
神の手を拒む己れと識るひと日ゼラニゥム赤く赤く咲くべし





                                                     (2007.7.31.記)