「空色の日除け」若尾美智子
オムレツを食べながら読む朝刊になめくじの記事ずるずるつづく
ほの暗きマンション街に空色の日除けはためく花店があり
旅行鳩五十億羽が乱獲で消えたる空は広くもあらず



「をりをり」山寺修象
カンボジアのノートのうちの一冊はわれに買はれて作歌ノートになりぬ
みづからを発光させつつとぶヘイケボタルじしんもすこし熱からむ
ハンモックの網目のそとに触(さは)るわがからだの一部はおいしさうなり



「若葉の道」山本栄子
一編の詩の完結を見るように童のスキップ眺めておりぬ
しなやかに若葉揺れおり神の手が袱紗捌きをしているように
ころころと母が呼ぶ鈴夏座敷抜けて厨の私に届く



「うどん」林悠子
幼子をひと日預かる昼餉にはうどん刻みてふわりと煮込む
身体ごと揺らすしぐさが明確に「ちょうだい」を伝える一歳半なり
空色の色鉛筆で○を書く朝顔咲いた数だけの○