◆『夏桜』 中野昭子歌集


  もち重りするにはするが空洞で南瓜のごとき六十歳(ろくじふ)すぎぬ

    
 二〇〇〇年夏から二〇〇六年夏までの著者
六十歳前後の時期の作品で編まれた第四歌集。
「人並み程度にいろいろなことがあった。」と
いう、高齢の親、夫、娘、孫に囲まれた日日
からうまれた三六六首からなる。


 タイトルの夏桜は、俳句では初夏に咲く遅
咲きの桜をさす夏の季語だが、著者あとがき
によると「夏の日ざしのもとで繁っている桜
の樹」の意。花の時季のみならず、夏の桜樹
へと心を寄せる著者。そんな著者のユニーク
な発想と視点の作品に心惹かれた。


  貴賓席に椅子の多くて椅子のまを通る貴賓が横歩きする   
  次の子は女童(めわらべ)ほしく眠る児を返して見るがまだ来てをらぬ     
  ははそばの母が畑をうつらしく土のにほひがわれをこぼるる
  四つ辻の夜の灯(あかり)のさみしけれわれより引き出す影ふたつみつ     

 

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                                       (伊波虎英)