■
犬の目から見れば人間みな名無し名無しの人が犬の名を呼ぶ 生野檀
キリストの言葉告げたる伝道者インターホンに顔を見せざり 森脇せい子
穴のぶん軽くなりたる切符もち階くだりゆく青梅雨の午後 洞口千恵
従業員と店主が深く頭下げ東北書店は店を閉じたり 助川とし子
流行のシャツに隠れるマネキンの乳首のとがり夏は来りぬ 間ルリ
夕立にしとど濡れたることなども喜びのごとしよ少年たちは 御厨節子
「宇宙戦艦ヤマト」を歌ひし男なりテレビに腹巻きの通販するは 西尾睦恵
ホトトギスの声澄むゆうべ机上には吐血の詩人貧窮の画家 久保寛容
えんぴつのちょくせんきょくせんやわらかし母からの文いく度も読む 柊明日香
何事を言うは易くも行なうはやはり浅草雷おこし 森直幹
名札見て名前で呼べばその日よりレジをはさみて会話始まり 前田靖子