草の匂ひつれて爺ちやん帰りくる藁しべに牛蒡抜けさうに括り  大畑敏子



叱つてもまだ笑ひよると婆さんが孫叱る声路地にひびけり  牛尾誠三



あきるほどながめてもなお微笑んで弥勒菩薩はただ美しく  戸川純



赤信号を渡る女はおしなべてまずしきフォームにて走りたり  江國凛



たまきはるわがうちに冷ゆる縞蛇の眼の紅玉をあへぎてぞみむ  弘井文子



とことはに逢ふこと無けむさらばてふ母音悲しき一語に依りて  内藤健治



葬列の先頭のごとゆるゆると法定速度遵守車は行く  斎藤寛



「根性」と名付けられたる大根のあはれ舗道に太りゆく夏  三良富士子



席確保すべく置かれし布手提げやや傾きて人待つこころ  河村奈美江



昨日駅に置き忘れたる雨傘のよそよそしければ持ちて帰らず  関口博美



嫁ぐまで過ごしし家はあらねども電話番号すらすら出でく  永田きよ子



フルスペックハイビジョンとふつぶつぶが吾に迫りてみせる真実  勺禰子



カミキリのひげの長きに思ひたるひげに税かけしピョートル大帝  岩橋佳子