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◆『流亡の神』 米口實歌集
「眩」を主宰している著者の三三七首から
なる第四歌集。今年八十五歳になるというこ
とで、おのずと老いや死をみつめる歌が多い。
白桃の和毛(にこげ)ひかれり老いびとの食みあましたる夢のごとくに
股関節を確めながら起きあがる網にかかつた魚のやうだ
ひとづてに死期の近しと聞きしかば白くかがやく夏衣をまとふ
うつりゆく季(とき)のさびしさ わが庭の樹下石上に白き猫ゐる
四首目、ただ単に人生の儚さを寂しんでい
るわけではなくて、何かしら清々しさを感じ
るのは「白き猫」の存在に拠るだろう。もち
ろん、猫も無常の流れに逆らうことはできぬ
儚い存在に過ぎない。しかし、歌の中の白猫
は、あたかも行脚の末に悟りを得、永遠の命
と引替えに姿を変えられた遊行聖のように、
万物を超越した存在として神々しく鎮座する。
風はやさしく唄つてくれたこれからは死ぬことだけが俺の仕事だ
(砂子屋書房 〒101-0047 東京都千代田区内神田3-4-7
電話03-3256-4708 定価3,000円<税別>)
(伊波虎英)