■
おほいなる馬のお腹にゐるごとしもんもんと気温三十七度 洞口千恵
戻りくるノラがふぐりを捨げ出して踏んでもいいよとばかりの残暑 林とく子
くそつたれくそつたれくそつたれくそつたれ!四度叫べば哀願となる 黒田英雄
労働のさいごの力でシャッターをおろして赤き蛾も潰したり 久保寛容
「ズボラ」とは「坊主」の逆の複数形『禅的生活』のあとがきに知る 矢野佳津
前に出るならば今なりクリスピークリームドーナツ二度唱へつつ 大越泉
秋葉原は夢を見させて現実へ人を還す街 少年逮捕 生野檀
お神輿を二階から見てはいけないと教えし母のいない祭り日 立花鏡子
騙し舟にだまされゐたる日々のごと夫亡きのちのながきひとりぞ 中島敦子
弱者として言うべきこともそうは無い週に一度のカウンセリング 生野檀
治す気のない医者治りたい患者かたみに笑みて何事もなし 洞口千恵
美しきポリープひとつ育てゐてまだ死に方を教はつてない 平居久仁子