◆『高柳蕗子全歌集』 


 四冊の歌集とそれ以後の作品「漂流トラン
プ」十八首をまとめた全歌集。冒頭八文字を
抜き出した「あいうえお順索引」と共に「キ
ーワード索引」が付されているのが嬉しい。


  花びらの浅いふくらみ泣きはらす赤いまぶたにたとえてはならぬ 『ユモレスク』
  父王に似た長鬚の山羊ひいてナルスモニナのぶらぶら王子 『回文兄弟』
 

 逆さ言葉から生まれた「ナルスモニナ」は、
ナルニア国に負けないくらい魅力的。評論で
比喩というレトリックに違和感を表明する著
者は、実作で回文やしりとりなどの様々な言
葉遊び、条件を課した「ごっこ」を展開する。
それは単なる「短歌ごっこ」ではないのだろ
うけれど(著者は六年以上も歌作を中断し、
評論活動のみに集中する情熱の持ち主だ)、
我々は単純に作品を楽しめばよいのだろう。


  かわいがれず撫でまわすうちに一夜明け蜜柑になったあたしの赤ちゃん 『あたしごっこ』 
  僕は昔気質だ君が泣きながら産み散らかした卵を売るのさ 『潮汐性母斑通信』      
 

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                                 (伊波虎英)