搾り器を粘り出でくる蜂蜜の垂れゆく蜜に気泡が光る  松岡建造



その一生に三万本の歯を使う命の束としてのホホジロ  勺禰子



新しく妻を迎えし画家の絵に女きわめて簡素に描(か)かる  越田慶子



死の床にあらざる我は夏の夜にカンガルー肉食ひてゐたり  みろみ



歌ふたびふくよかになる夏川りみ あまさず映す薄型TV  萩島篤



誕生日電話もメールもくれぬ子よ五十七歳にはならないでおく  田平子



きみの口調思い出させる「がんばって大人を続けています」の一文  中野粒



ふわふわと薄い色して秋の蚊は闇に紛れぬ紫煙のように  立原みどり



水鉢の底に沈める貝殻の白きかたちもそれぞれに秋  佐藤宏子



彼岸花刈田のほとりに列なして咲かねばならぬ葬場への道  中島信子



空は空をやめたくなってこの街にあまねく雨がゆきわたる夜  江國凛



パチンコの広告の裏ま白にてここより生まるる拙き歌は  犬伏峰子