ひざがしらに夏の光をあつめつつ自転車こぎゆく女がひとり  正藤義文



星ひとつわが眼に遠く潤むゆゑなほ親しかり老いゆくことも  尾本直子



朝の雨に濡れし墓石のうへに置く草まんじゆうの色やはらかし  洞口千恵



「ふたりならすべて美し」サトウハチロー夫妻の墓にギンナンくさし  花鳥佰



鎌のちから使ひ果たししたうらうの琥珀(アンバー)の羽に秋雨くだる  岡田幸



君に返すことのなかりし一冊が文庫本になり書店に並ぶ  阿部美佳



散歩より帰り来たればわが犬は「我が家、我が家」と門を入りゆく  久保寛容



死に際の犬は人間のまなこすと詠みしスハルよ わすれていたのに  荒井孝子



真夜中は一反木綿に変はるべし置き型ファブリーズはおほきな蛹  梅田由紀子



モンゴルの虹は美しと繰り返す高砂親方はノーテンキか詩人か  坂井あゆみ