私より若いであろう研修医日なたを歩く人の優しさ  生野檀



思ふ程思はれもせず秋の日は釣瓶落としに暮れ独りきり  山科町江



ゆうぐれの海に真水は運ばれて河口がひらくことの哀しみ  久保寛容



夏の陽はメールのように秋の陽は電話のように縁側に差す  菅原和江



未来より確かなる今日みどりごは諸手広げて生まれて来たり  河村奈美江



霜月といふにTシャツ着て歩く北大路欣也は大根役者  黒田英雄



ぼそぼそとおからクッキー食べながら誰からも遠く歌詠むわれよ  高島藍



ほんたうに酸つぱい蜜柑を知らぬまま大人になりゆく平成生まれ  近藤かすみ



筆順を誤ったまま馴れてゆく新たな姓をサインするひと  江國凜



体内の音叉鳴りそむかまえたる男の枹がふりおろされて  荒井孝子



「しあわせ」を捨て「きらやか」に名を変へぬ合併なりし町の銀行  荘司竹彦