魔法のごと夫の獲りくる大根にみじんも泥が付いてはおらぬ  高木律



つきつめて言へば私も産む身体灯ともる鳥屋(とや)に鶏(とり)は眠りき  田宮ちづ子



骨と骨ぶつけるやうに畳まれて不特定多数のスチール倚子よ  篠塚涼



眠たげにぐずり泣く子をおもわせる朝の霙となりておりたり  渡辺信昭



晴れ時々人間が降るパルコ前空見上げつつつつつと歩く  斎藤寛



はたらくに要るはパンプスつまさきに夢も悲哀もむんむんと容れ  田中曄子



踊り場で歩みを停めし看護師は深呼吸して階下に向かへり  牛尾誠三



はなれても温度測れるプランクの式うつくしき輻射法則  針谷哲純



「言葉では言へない、だから歌にするの」河野裕子の力説を聞く  長谷川知哲



緊張が歌をつくるととつとつと空穂は言へりビデオ画面に  永井秀幸



入り組んだ路地の坂にて出会ひたり人の言葉を配達する人  宮崎稔子



軒先に吊されている渋柿をアンポンタンとむかし呼びにき  柴田郁子



灰色の空のままにて暮れし日に夕陽の色の柿剥きており  大原幸子



うつしみを傘にかばいてゆく道にずぶ濡れて佇(た)つ早世観音  佐山みはる(旧 有馬美佐子)



休日のバイキングでは不器用な家族の方が幸せに見える  丸井まき



                                                     (2008.2.28.記)