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ときわ木も冬の色めくわが庭にひそかに佇たすヴィトゲンシュタイン 久保寛容
正論でこの世を生きてゆけるなら 夕餉のキムチ鍋の混沌 近藤かすみ
垂乳男といふことばこそかなしけれあばら骨うく老いたるアダム 松野欣幸
お守りの如く持ちゐる末の息子(こ)の名刺年経るほどに増えゆく 室山郁子
南瓜と薔薇(ばら)のDNAが近きこと一つの深き寓話のごとし 森脇せい子
雲を斬る野武士のごとき構えするジャイアンツ小笠原の髭なきを泣く 越田慶子
バンコクへ三泊四日の旅費はほぼ猫の餌代一年分なり 田村よしてる
太郎次郎をふかくねむらせ雪ふれり大雪ふれり音威子府村(おといねつぷむら) 菅八重子
奪衣婆と懸衣翁とは現世に兄と妹でありしとも聞く 朝生風子
(2008.2.29.記)