露出計すこし狂って白すぎる陽射しの中にシャツの胸ある  谷村はるか



拾い来し紅葉が机上で反り返る秋から冬への舟の形に  東海林文子



なにがなし気後れのしてとほくより師に憧(あく)がるるをよろこびとせり  原みち子



新仮名で吉川宏志が歌を書くことに気づきぬ秋おわるころ  若尾美智子



紫の野菊いつもの場所に咲き歩むためなる歩みもよろし  古本史子(旧 織田梨花



運命を呪ひしこころのなれの果てとも思ほえて寒椿散る  洞口千恵



冬の川に冬の水あり人間の生活(たつき)を隔てかつつなぐ水  洞口千恵



うつむける少年にあはき盆の窪ありて小春の光あつむる  平居久仁子



かなしみの色に染まるよ仁丹の銀の小粒に夕闇おりて  梶田ひな子



店内の手描きポスター誤字あれど商ふ気迫びんと伝はる  竹浦道子



心逸(はや)る故目を閉ぢてゆつくりと目を開きたり阿修羅の前に  下村由美子



万葉の足占(あしうら)まねて歩をかぞへ君の部屋まで月影を踏む  有沢螢



無念さが積み重なっていくところ部屋隅にある足踏みマシーン  磊実



臈たけき女歌人指なめてページ捲るを見てしまいたり  宮本田鶴子



部長が鳴らす電子レンジが11時58分をお知らせします  斉藤斎藤



右下から剥がすハガキが赤いから自己責任で貢献にゆく  斉藤斎藤



げんじつの「じ」の辺りから腐りだすじゆう、じんけん、じみんとうなど  松木



五二キロの母を抱ふる看護師の五本のゆびは尻にくひ込む  紺野裕子



触れられぬ砂時計の砂明るくてかすかに怖ろしき真昼なり  守谷茂泰



                                                     (2008.2.29.記)