誰が死んでも花にも星にもなれなくて「ごんぎつね」ただ兵十が泣く  西橋美保



耳近くやさしい言葉云うときにあなたはかすかにかすかに訛る  谷村はるか



暗闇が届くところにあったころ生まじめな父は蛍であった  梶田ひな子



川に降れば川となる雪人生に無駄な出逢ひはなしといへども  洞口千恵



サムソンの腕畳み込み除雪車はのっそり春の国道に乗る  森澤真理



守らるることは寂しき逆光の顔なき父に雪拭われて  森澤真理



何かこうぱっとした事ないものか妻は病み猫は老いぼれている  大岡拓也



一本の新巻鮭を食べつくす<かぐや>に見たるあをき地球に  紺野裕子



身柱元(ちりけもと)ほそやかにしていさら川けだしくもはた聳やかならむ  大倉佳彦



戦争を知らざる若さ歯の白さ関口知宏の中国旅行  宮本しゅん



再再婚果たせるひとのその妻は前前妻の在りし日に似る  竹浦道子



ごみ箱は何でもごみにしてしまうミカンの皮も記念写真も  松木



毀れてゐる毀れてゐるがそのまんま固まつてゐる日常がある  ふゆのゆふ



“たかが人生”桂銀淑(ケイウンスク)のCDの擦り切れるまで待つわあなたを  原みち子