■
生き物はなべて嫌ひといふ母のいかにかいます春の明け暮れ 平居久仁子
帰宅せし解放感に脱ぎ散らす服しみじみとふるさとぎらい 古本史子
封筒を湯気にかざして開きたる女がありき古き映画に 若尾美智子
老いびとら秘密指令に従ふごとリュック背負ひて無人駅に並ぶ 三木伊津子
雪の日のビル外階段五階より降りゆく足に幸ひよあれ 竹浦道子
狼のひとみ存外ちひさくて深き孔よりかなしみは来る 和田沙都子
<ああ割腹美少年>なるせんべいが喜多方にあり饅頭はなし 助川とし子
新宿の新生堂てふ菓子店に<切腹最中>あるを知りたり 助川とし子
とだえてはまた吹きすさぶ夜嵐を春の生まれる陣痛ときく 渡辺未知也
蕗の爺蕗の姑 蕗の薹を食むときほろり浮かぶちちはは 梶田ひな子
自己破産したるいとこが節分の日には必ず豆撒きに来る 松木秀
国道の闇を横切る雪の脚くるぶしまでがライトに浮かぶ 洞口千恵
寒そうな冬木のかたちまなうらに焼きつけてから訪うジャズ喫茶 守谷茂泰