生き物はなべて嫌ひといふ母のいかにかいます春の明け暮れ  平居久仁子



帰宅せし解放感に脱ぎ散らす服しみじみとふるさとぎらい  古本史子



封筒を湯気にかざして開きたる女がありき古き映画に  若尾美智子



老いびとら秘密指令に従ふごとリュック背負ひて無人駅に並ぶ  三木伊津子



雪の日のビル外階段五階より降りゆく足に幸ひよあれ  竹浦道子



狼のひとみ存外ちひさくて深き孔よりかなしみは来る  和田沙都子



<ああ割腹美少年>なるせんべいが喜多方にあり饅頭はなし  助川とし子



新宿の新生堂てふ菓子店に<切腹最中>あるを知りたり  助川とし子



とだえてはまた吹きすさぶ夜嵐を春の生まれる陣痛ときく  渡辺未知也



蕗の爺蕗の姑 蕗の薹を食むときほろり浮かぶちちはは  梶田ひな子



自己破産したるいとこが節分の日には必ず豆撒きに来る  松木秀 



国道の闇を横切る雪の脚くるぶしまでがライトに浮かぶ  洞口千恵



寒そうな冬木のかたちまなうらに焼きつけてから訪うジャズ喫茶  守谷茂泰