ぽっかりと奈落が口を開けている闇夜木蓮ましろに咲けば  立原みどり



秒針がチック、チックと動くたび時は形となりて現る  四屋うめ



死者生者ともに澄みゆく花のころひと多き二年坂を歩きぬ  関口博美



解剖は水平に置かれ解体は吊されてゆく死の重量に  服部文子



眼球の露出部分からわたくしはぱさぱさの存在となりゆく  本田鈴雨



チャカボコと登り来たりしローカル車たつた一人の客のせてゆく  大畑敏子



曲がるもの折れたるものは除かれて束ねられたる松葉独活(グリーンアスパラ)  田中曄子



みながつく噓に頷きいちにちをすべなく眠るちちに風吹く  水原茜



波にもまれ汐に洗われ流れ着く哀れ海豚の長き髑髏(どくろ)よ  藤倉和明



成人を待たず逝きたる教え子の濃き鉛筆の賀状いでくる  後藤祐子



もう少し飾っておこう雛人形 春が終われば娘(こ)は嫁ぎゆく  田端洋子



つんのめって前へ子どもが転ぶときもののみごとに両手投げだす  西尾正美



鍵をもたずにぶらりと家を出た夫わたしのきょうを手にぶらさげて  山本照子



ふろしきをぎゅっとしばってわたくしもはるの重心へと向かいます  今井ゆきこ



欠伸する校長の口虚空へと一瞬吠ゆる形に開く  松岡建造
 



                                                   (2008.8.20.記)