子の指の跡の残りしどろだんご陽光のなか乾きてゆきぬ  鶴田伊津



領収書の束が結局私を現すものと成りいるあわれ  生沼義朗



手ざはりのざらつく写真一枚をアルバムと呼ぶ砂より拾ふ  西恕Wみどり



石鳥居くぐればのぼる石段のうへ春分の日の丸垂るる  川本浩美



最後まで生き残るのかなんとなくむかしから好きだつた谷啓  大橋弘



言の葉をけづるならひに見渡せば墓石に「墓」と刻むはかなし  寺島弘



「センセイハ、ヤサシイデスネ」とリーホァンが言ふのはすべて金にかかはる  山寺修象



日光浴しつつ本を読みをれば日々陰茎のしろくなりゆく  山寺修象



ミスプリはかなしかりけり過ちて鮒と書かれし鮴もわたしも  橘圀臣



天の手の撒きしがごとき群雀一羽一羽のうごきすばやし  三井ゆき



ぐちやぐちやになつてしまひし道頓堀に老漫才師のポマードの匂ひす  斎藤典子



生活のすべて数字に置き換へるさびしさ覚ゆ独立ののち  宇田川寛之



桜咲くかぎり生きていけそうなわれと思いぬ桜木の辺に  関谷啓



此処からは根羽(ねば)といふ村さんぐわつの風も日差しもまだ寒くして  春畑茜



望みなき明日が来るから薔薇の香につよく抱かれておやすみなさい  倉益敬



老いも病も歌はぬ高橋治子さん「短歌人」最高齢の会員なりき  蒔田さくら子



運河には桜の花の断片が浮かびて暗き水の傷みや  藤原龍一郎



をんな兄弟ひとりもなきこと身にしみておもはるるまでこころ細りき  小池光


                                                   (2008.8.24.記)