夜半覚めて思うは何時も同じ事闇の向うの更なる闇を  野地千鶴



無尽数(むじんず)の樹木を昇る水の嵩天に見るとき瀧のごとけむ  武下奈々子



わたくしに背骨のあるを思い出すひとと真向かう緊張を得て  鶴田伊津



雪月花の華(はな)にまひるを酔ひながらすべてのことは既視感(デ・ジャ・ヴュ)・未視感(ジャメ・ヴュ)  橘夏生



こどもの日何に挑むや命なきゆえ勇ましき武者人形よ  八木博信



飛び石の狭間を埋めた休日に豆から挽いた珈琲を飲む  村田馨



灰皿に吸殻九本 吸殻の宿命としてみな潰されてゐる  小池光



やるだけはやったと笑顔の桑田にはアンチ巨人の頬もゆるむぜ  諏訪部仁



新しく知る人よりも消ゆる人多くてうてなにましますほとけ  三井ゆき



大いなる花火頭上にひらくときわれを思ひだす人ひとりあれ  金沢早苗



つかれてる疲れてゐない花びらをむしり尽して義理を捨て去る  大森浄子



ただひとつ繋がれているたましひがわれより出づるごときゆふぐれ  原田千万



                                                      (2008.10.01.記)