何となく書棚より取る『冷血』にわれの妬心は衰えず在り  久保寛容



心底人が恐ろしと思ふ夜ぞ セコムも人につながりてゐる  森脇せい子



ひとところこゑ強むればそのやうにimagineと言ふ生徒らをかし  野村裕心



置き場所をあれこれ変へぬといふ事が老いの哲学めきてきたりぬ  佐々木和彦



食卓に載りて明るき豚足の動き出すかも正午(ひる)のサイレン  田村よしてる



母の日に亡母(はは)の好みし肉うどん軟らかに煮て仏壇に供う  刈部利江