自販機に大人とわかつてもらふため母は写真を撮らねばならぬ  高澤志帆



鳥が地を見渡すように未来より誰かが我を見ている日暮れ  守谷茂泰



この我を捕へることなく晩春のミニパトカーは曲がりて行きぬ  田中浩



一分が速く過ぎゆく買い換えて小さき目覚まし時計にすれば  若尾美智子



駆けぬけて未来に追いつかうとする列車を樹樹はずつと見てゐた  矢野佳津



血圧計の機嫌とりつつ三度目の数値記入す朝に夕べに  宮本しゅん



ひざ厚く座る女を見てをりぬ町内会の集まりのなかで  正藤義文



真ひるまの路上に茶の間あらはれて忽ち古家壊されてゆく  佐藤大



憎まないことが密かな復讐と呟く笑顔をはりつけたまま  東海林文子