繁栄の時過ぎし国と思ひつつ電気コードのねぢれをもどす  森脇せい子



この村の大切な木の下に座す 無慾に此処に在るをよろこぶ  田村よしてる



殺したい一人の男の幻想も抱けぬ馬鹿の“誰でも良かつた”  黒田英雄



勝負師の真髄見たりその一手に羽生善治の指かくふるへるを  小出千歳



カッタ君死亡の報に幼卒という学歴のきらめき想う  生野檀



ひらきたる白きページに一本の髪落ちぬわが創造物として  松野欣幸



印鑑でもサインでも良し 世を統べる形式には形式を返すのみ  河村奈美江



老いぬれば盆提灯を組み立てることもひとつの重荷となりぬ  中島敦子



二十万勝ちたる夜半にその金を破り捨てたき思ひは湧きぬ  内藤健治



日盛りに直立不動のひまわりは球場に立つ球児のようだ  木村悦子