ぽうと呼ぶにぽうと応へてふくろふの不可思議の目をみひらきにけり  酒井佑子



飛行機をはこぶ飛行機があると聞くその巨大なる飛行機見たし  関谷啓



団栗は手のひらの上しっとりと子の手の温み伝えてきたり  鶴田伊津



優しげなカーブの蛇口に水はしり言葉まずしきわが掌にあふる  相川真佐子



皿の上(へ)に食みたる巨峰の皮あまたわがくちびるに触れしものばかり  大森益雄



父の足時間をかけてさすりをり病室に樹々のしづまりは満つ  宇田川寛之



瀧野川信用金庫にはじめての生徒一人就職させき思ほゆ  小池光



淋しがる母を置き捨て来る街エコ・バッグてふ無粋が重し  武下奈々子



老いたれば悲しくもなく嬉しくもなくしみ出ずる涙にぬれる  八木博信



蝶蝶に生まれしゆゑに飛びながら性交するといふ離れ業なす  山寺修象



雨に煙る青森市立莨(たばこ)小学校など想へば寂し  西王燦



ニスの香に酔いたるごとく目つむりて夜汽車に乗りし記憶ありたり  藤原龍一郎



「国内すべて」と北京高官言うときの「国内すべて」にくらくらとせり  今井千草