晩年に母がつくりし万華鏡一生尽くしてめくるめくなり  杉山春代



栗色のストラディバリウスぬばたまの黒髪かがやく諏訪内晶子  蒔田さくら子



ややに陽は傾きはじめ入り来る電車はこの街の影を連ねる  平野久美子



少年の耳は柴犬の耳に似て夕日の中で時おり光る  早川志織



魚の目をつめば鶏眼あらはれてゆふべゆふべをみひらくまなこ  吉岡生夫



春風を浴びて麒麟が立ちてをり首より上のみ夕陽に濡れて  原田千万



体育館にモンシロチョウが高く飛ぶ遠き日のわれ遠き日のきみ  金沢早苗



右を出し左を出すは認知症の人にやさしき介護士の頬  八木博信



同齢時の茂吉のごとく禿げてゐる生沼義朗をすこしうらやむ  山寺修象


             
                                                    (2009.3.11.記)