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箸の穂にあやつり食へば罪はふかく秋刀魚のわたのつくづくあまき 矢嶋博士
わが指をにぎる赤子をめりめりと三次元世界へ引き起こしたり 川井怜子
地下鉄の闇に消えゆく車輌よりほのか鋼鉄のあまい風立つ 新井れい
わたくしを展開すれば不可思議な糊代ありてぴろぴろと揺る 斎藤寛
旅先に天気予報を聞いてゐるごとしよ友の友人の死は 佐和美子
箱根山越えゆく雪の疾(はや)ければ残さるるわが耳はつめたし 関口博美
にんげんを元気にしたいとにんげんは街道の木々に電飾つけぬ 安藤厚子
早々とシャッター下ろす店先にホームレス来て紙の家建つ 佐山みはる
一年を終わらすための除夜の鐘テレビがなければきくこともない 森直幹