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春の戯奴(ジョーカー) 伊波虎英
チューブ振りしぼり出したる歯磨きの白にも春の兆せる朝(あした)
いつぽんの常緑樹なるコンビニに寄れば針の葉わが頰を刺す
バーコードよみとられゆくその刹那、刹那、刹那を生者は死せり
衣更へせし人びとのゆく街にゾシマ長老の腐臭は満ち来
水切りの平たき石の飛び跳ねる塵点劫(ぢんでんごふ)に死者はあそべり
はるかぜに添へ髪(ウィッグ)揺らすをとめごはフサアカシアとなりてしまひぬ
ゴルディオスの結び目のごとく電線に一羽の鴉うごかざりけり
満開のさくらの花につぎつぎとマスクの人は誰何(すいか)され行く
春雷のごとく轟(とどめ)きブラウン管ともらざる日のたびたびあれり
バラク・オバマの何を映して果つるのか九五年製のテレビは
ユニクロのジーンズはまだ穿けるだらう二十七歳(にじふしち)から四十二歳(しじふに)を経て
われらみな一輪の切り花なれば街はあまねく魂魄の領
うす紅の樹冠ふるへてはらはらと春のカードはばらまかれゐき
ビル風に吹かれて街をゆくわれは折れあと著(しる)きババ抜きの戯奴(ババ)
捨て紙にくるみしガムよ発芽してわが詠へざる歌をささめけ