子を乗せぬ自転車のペダル軽くあり飛ぶようにゆき飛ぶことはなく  鶴田伊津



乗り手なき自転車鈍く光りおりこの春の陽を独り占めして  高野裕子



手にふれて銀の食器の曇れるをけふのいたみのごとく思へり  高田流子



太陽のつくりくれたる影を連れ山の辺に摘む蓬のみどり  古川アヤ子



歌人同人欄の平均よりやはり茂吉のはうが上手い  山寺修象



瞬間を永遠としてエポケーといふ語に似合ふ擬態語「ぽかん」  菊池孝彦



切られたる桜の木にも春が来て花なき枝を空にさらせり  関谷啓



阿修羅像不在の奈良に「せんとくん」かはゆくなりて駅に立ちをり  斎藤典子



昼寝より覚めたるときにわがからだ煮えたぎるまで疲れてゐたり  小池光