思い出を盛り付けるには白すぎる食器が並ぶ雑貨屋の棚  海野雪



羽だけの蝶々のやうなさくら散り眼に貼りついてそこからは、闇  勺禰子



午後七時しずむ夕日の輝きは君がのみほすオリオンビール  新倉幸子



コンビニのレジのわきにも彼岸ありて花束三つ売られてゐたり  田宮ちづ子



ケイタイのデータを削除するやうに労働者たやすく首切られたり  山田政代



獣らに言葉要らざり白熊は鼻もて水に子熊を落とす  青木みよ



綿菓子のとけゆくやうな恋をする娘のうなじまぶしかりけり  伊吹礼子



シンデルポスト、イキテルポスト、あの町より出しし手紙はどこをただよふ  吉岡馨



春の陽はいたずら好きでわたくしと猫の影とがまた入れかわり  今井ゆきこ



先頭の馬が勝つことはまれなりししかし必ず先頭に馬ゐる  西尾正美



けふは洗濯日和とテレビに指示されて日本の女かはゆかりけり  小島厚子



なよたけのひかがみ晒す少女らをいっとき止めて信号の赤  渡口航



うやむやにまた村消えて荒き風吹くこと多きこの春の日々  赤井多恵子