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言われればみな真に受けていた日々の踏まれて影は痛んだろうか 谷村はるか
ランボー、冬衛、共に右脚切断
在りし日の詩人ふたりの切られたる脚が時計の針になる夢 山科真白
一歳は天使にあらずびりりりと新聞裂きゐる影悪魔めく 下村由美子
食べるのを拒むも生きゐるこころなりと主治医は母のいのちをかたる 竹浦道子
<人も馬も過ぎゆき疲れ>甲高き迢空の声テレビに聞きぬ 助川とし子
肉食の螢とあまり知られずにやさしい光を好まれてきた 矢野佳津
くそばばあこいつのための言葉だと思うほんまにこのくそばばあ 大橋麻衣子
職退きて四年すぎたり今いちど板書したかり「空」と大きく 菅八重子
フェルメールのヴィオラの弦に降るやうな吉川宏志のことばのひかり 和田沙都子
祭日のなきろくぐわつはさびしけれ美少年の日などあらずや 田中浩 (注)「ろくぐわつ」に「、、、、、」
死ぬるときは息を吐くにやはた吸ふにや梅雨の夜風にカーテン揺るる 洞口千恵
親族が真鯉のごとく集ひくる梅雨の底なる祖母の命日 洞口千恵
魂を担保にトイチでカネを貸す業者があるという ラトビアに 松木秀
点滴のぽとりぽとりとしみてゆく血の中にこそ春は来にけり 山崎泰