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はじめての海は熊野の海がいい。ざぶーんざぶぶと波音教え 鶴田伊津
みづからの影しまひたる樹はすこし太りてをらむ六月闇に 大谷雅彦
座布団を抱へたひとが待つてゐるバス停「泪橋」、夏昼下り 渡英子
我が骨を砂時計にして子孫(うみのこ)とお好み焼を焼く夢を見つ 足立尚計
ややひかりうすき券売機のほとり買ふべきキップがまだ定まらぬ 三井ゆき
半世紀前の写真に喚声をあげつつたれも寂しさを言はず 鈴木律子
怒りにも似たる喜びおそらくはすでに終わらむ恋の始まり 八木博信
スカートにとりすがり泣く幼子の声ひきずりて母さんはゆく 石川良一
がやがやと声も煮詰まりつつありぬカレーの香り充ちるキャンプに 村田馨
人生幸朗生恵幸子のいきいきとぼやく世の中こそめでたけれ 吉岡生夫
辞められて羨ましいといふ人も居るさうだよねさうだよな 神代勝敏
デパ地下のマンゴージュースに口染めて満足さうな児に満足す 中地俊夫
朝飯前になにかすること大事東根さくらんぼの礼状しるす 小池光