まじなひのやうに七色唐辛子けふも振りたり味噌汁のうへ  大越泉



エル・ニーニョに夏を捧げて冷えながら眠る咲かないつぼみのように  谷村はるか



この顔は母の顔から遠ざかりまた近づいて化粧を終える  猪幸絵



夢なべてケータイに記憶させたしとテレビの若きをんなは言ふも  加藤満智子



海辺へと詩人の墓を訪いに行く石鹼玉ながるる路地を通りて  守谷茂泰



痩せたいと言う子がいれば朝に夕に太った母がサラダを作る  川口かよ子



酔ひて夫は帰りてきたりわたしへと死にたる小鳥をお土産として  西橋美保



月光をしばらく浴びてうた作る狼ならねど変身遂げて  おのでらゆき



私は少年ジェットの平和しかこの年をして信じてをらぬ  田中浩



夕立ちの気配に怯えるふりをして友の視線を避けて歩きぬ  滝田恵水



ALOHAと大書されたるパジャマ着て鏡に映るAHOJA(あほじゃ)わたしは  生野檀



永遠といふはなけれどなけれども触れれば温(ぬく)き母のゐて欲し  竹浦道子



ふるさとへつながる海のせつなさは青の時代のピカソのブルー  畑中郁子



向き向きに木の伸び許さぬ海浜に近き原野をサロベツとよぶ  小西芙美枝



ビルかげからぬわんと出でて遠花火りちぎにひらくみだらにひらく  花鳥佰



「餅一斗搗き江戸城に運べよ」と真顔に言へり寝たきりの母が  助川とし子



もどりゆく波が足裏の砂さらうやせゆく海馬おもう日暮れは  会田美奈子



舌赤く染めてサクサク氷食む真実でなき短歌(うた)が詠めさう  稲吉佳子



『ネフスキイ』つらつら歌を目に追うに作者の低音(バリトン)きこゆるごとし  神原僖美子



頭より糸屑ほたと落ちてきてつつましくなるゆふべのこころ  洞口千恵



ひぐらしの群がり鳴けるその中の一つさびしき音色きき分く  岡田幸



大衆性があるとはいうが実際は大衆性しかなかったりする  松木