僕わたし小生自分俺吾が輩みども拙者の人生模様  岩崎堯子



万引きしたる鍋でアルミの実験をした少年町の開業医となる  山本照子



登山口に戻り来たれる老夫婦 山に対ひて深き礼する  黒河内美知子



幼日の面をつけたる我のごと童歌出づ間違いもなく  北村鈴枝



テーブルのメロンがほのか匂ひたつ晩夏の午後をまどろみゐたり  北岡千代子



とうとうと流れる水を染め上げて沈む夕日に明日を祈る  南野和紀



遠き日の恋語り出す人ありき曼殊沙華咲く無縁墓の前  海野雪



梅干を舐めつつ歌を詠むといふ河野裕子の歌あり真似つ  坂本能章



安達太良の名物と言ふ桃パンは母の乳房の形してをり  津布久愔子



ローマは雨ソウルは曇りキトは晴れコーベはくもり抒情はしない  徳橋兼時



川底の雲をたつぷりすくひたる青色の網掲げられゆく  脇山千代子