我の声急にあかるし教室の窓より見える虹に気づきて  岩下静香



藤原さんの解説すばらしいとわが歌集評する便りに一寸複雑  宮田長洋



すでにして秋の星座となりし夜を鳥威し銃は不規則に撃つ  石川良一



頂きし柿の葉寿司の紅葉を机に並べ三日を経たり  中地俊夫



しりとりをしようと子が言ふ「さんぽ」からはじめてゐたる日曜のあさ  宇田川寛之



トリニダード「三位一体」而してトバゴは「たばこ」夕陽が赤い  小池光



ヤフーのテキスト翻訳「狂歌」とは「Comic tanka」といふが悲しい  吉岡生夫



尖頭のフォーク歩くとおもふまでスーパーモデルはわれにむかひ来(く)  紺野裕子



薄れゆく道標の字を読む真昼 物の影みな息をひそめぬ  守谷茂泰



実験用兎みたいに眠ろうよネットカフェ個室6時間パック  八木博信



座礁せし鯨のごとく伏せている僧の裾より香の匂い来  森澤真理



日常は忘れてゐたる庭石の雨降れば黒光りして来ぬ  西崎みどり



秋陽さす金物店の大鍋はアルミニウムの光をかえす  木曽陽子



たつたひとりの家族がいまし帰りきて車庫に車をぶつける音す  古川アヤ子



<主よ、主よ>と苦しいときにのみ唱へ吾が人生をなめてかかりぬ  水島和夫



カタカナでクスリと書くとたちまちに非合法なる響きひろがる  村田馨