マグリットの鳥」杉山春代  *一連30首より
図書館にどつぷりひとひ腰すゑて一時あづけの荷のごとくをり
棚経を終へたる和尚むきなほり娶りしことをなめらかに告ぐ
自転車に蛇行しゆけるのぼり坂はかりがたしも坂の苦痛は
かなかなの鳴きやみしのち遠巻きのつくつくぼふし声高になる
としのころ十二、三歳なるをみなごのけぶれる陰が岩風呂またぐ
若かりし母の癇性が磨きたる上がり框の黒光りはも
左手で箸をつかふ子よわが骨をやはり左で拾ひくるるや
残さるる時間たつぷりあらずともよしトーストの分厚きを食ぶ
風鈴が十六分音符に鳴りひびく退職をしてはじめての夏
蒼天に雲の寄りきてだしぬけにルネ・マグリットの鳥かあらはる