■
植木屋のはさみ鳴るそら極月のわが誕生日なにごともなし 紺野裕子
はんぶんの細好男(ささらえをとこ)に見送られ残業帰りのこはくないのだ 高澤志帆
みどりごがはじめて硬きものを得つ 下顎前列乳歯生え初む 本多稜
右足を前に掲げて踏み出せる広告ポスターやけに目につく 生沼義朗
いつしらに月日ながれて見開きの海を去りゆくなんばんの船 春畑茜
アリストテレスの提灯をもて何食みしウニの棘皮に触れて玄冬 三井ゆき
姉いもうと仲良きことをよろこびて父親われに涙はわきぬ 小池光
機窓開け果てまで白雲(はくうん)踏みゆかばきつと遇ひ得むかの亡き人ら 蒔田さくら子
「来ーい来い」と亡母(はは)の口真似なしながら時間をかけて尿なしをり 多久麻
亡き母の聞きし空襲警報をわが聞かざりきその親不幸 藤原龍一郎
『俳句的生活』とは何 生き方や死に方までを説く長谷川櫂 明石雅子
一人だけ知りゐしひとが亡くなりてがらんどうなり○○団地 山崎喜代子
映画館で見るゴダールとDVDで見るゴダールはやつぱりちがふ 長谷川莞爾
タクシーの斜め前方大き虹かかれど話題は広がりゆかず 林悠子
人類のもっとも陽気な深呼吸アコーディオンは空へ膨らむ 森澤真理
(2010.3.1.記)